ドアを開けて運転席に乗り込むと、そこにあったのは信じられないほどの静寂に包まれた世界でした。あまりに静かな空間は、耳に圧迫感を感じるほどのものです。世界に誇る、日本のショーファードリブン(運転手付きのクルマ)、トヨタ・センチュリーに試乗しました。
センチュリーは1967年に初代がデビュー、最初のフルモデルチェンジが1997年、そして今回2018年が2回目のフルモデルチェンジで新型は3代目となります。
ちなみに2代目の販売終了が2017年2月、3代目発売が2018年6月と、2代目と3代目の間にはセンチュリーが存在しない時期がありました。大衆車ですと、消滅か? という憶測もされるでしょうが、センチュリーは日本国として必要なクルマなので、近いうちに新型が出ることは誰もがわかっていました。そして2017年の東京モーターショーには新型が出品。概要が発表されました。
センチュリーは初代からモノコックボディを採用する革新的なクルマでした。2代目では国産乗用車初となるV型12気筒エンジンを搭載しましたが、3代目の新型は5リットルV8にモーターを組み合わせたハイブリッドとなっています。システム出力は431馬力と強力なものとなっています。
しかしながら、この有り余るパワーを使うのは何かトラブルが起きたとき、たとえば暴漢に襲われた際の緊急避難などで、普段は使われないものです。しかし、もしもときのためにセンチュリーでは必要なパワーなのです。
普段の走行ではこのパワーの10分の1も使わないでしょう。アクセルをゆったりと踏み込めば、スーッとクルマが発進します。ショーファードリブンでは発進したことも、停止したことも、加速していることも、コーナリングしていることも…できるだけ後席には知らせないほうがいいのです。
ですが、ドライバーはそれを理解できないと安全な運転はできません。この矛盾をギリギリのところでクリアしているのが素晴らしいのです。レクサスのようなドライバーズカーではありませんので、ドライバーが感じるインフォメーションは希薄です。にも関わらず、正確にクルマの動きを伝えるところには驚きさえあります。
そして、その感覚があるからこそ、ショーファー(運転手)は、パッセンジャー(乗員)を快適にそして安全に乗せることができるのです。
後席は広く快適です。ソファに座っているかのようなゆったりとした姿勢で乗ることができます。この空間はあるときは仕事場であり、ある時はベッドルームであり、あるときは応接間でもあります。そうしたことが見事にこなしてくれる空間と静かさがそこにはあります。
センチュリーはほとんど輸出を考えられていない国内専用車と言ってもいいほどの存在です。しかし、もし輸出が行われれば多くの国で歓迎されるでしょう。
超が付く高級車、本物のショーファードリブンは世界でも数えるほどしか存在しません。いわば、ロールス・ロイスと肩を並べられるのがセンチュリーです。このクルマはまさに日本の至宝と言って間違いないのです。
(文・写真:諸星陽一)
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Source: clicccar.comクリッカー