9月13日から17日にWRC(世界ラリー選手権)第10戦ラリー・トルコが開催された。
前回は2010年に開催されたが、当時のホストタウンはイスタンブールでトルコ北部で開催されており、この時はターマック(舗装路)とグラベル(未舗装路)が混在するミックスステージであった。
今回のホストタウンとなるマルマリスは、トルコの南西部・ムーラ県の地中海に面したリゾート。9月中旬でも最高気温は30度を超える事が珍しくないこの地域の地中海とコゴヴァ湾に挟まれるダッチャ半島の付け根部分にステージが設定される。路面はSS1を除いてグラベル、全て新しいコースとなり過去の経験値はリセットされた。
今回、トヨタはスウェーデンから投入された新型エンジンが投入出来ない。エンジンの年間使用基数制限と、シャシーとエンジンのバージョンの組み合わせ制限によるもので、トルコで使用するシャシーが旧型だが、レギュレーションで新型エンジンとの組み合わせが出来ないのだ。
コストカットを目的としたレギュレーションで年間に使用出来るエンジン数と残りイベント数のやりくりもあり、今回はやや不利と思われる組み合わせでTOYTA GAZOO Racingはこのラリーに挑んだ。
●Day1(9/13 The)
シェイクダウンステージ(5.0km)でトップタイムを叩き出したのはヒュンダイ・i20クーペのヌービル組。以下、フォード・エスコートWRCのオジェ組、トヨタ・ヤリスWRCのラトバラ組、タナク組とランキング上位勢が順当な仕上がりを見せる。
この時、ラトバラ選手は「最初の走行でクルマに大きな衝撃を受けたので、車高をもっとも高い位置まで上げ、その状態で十分な安定性が得られる様にセッティングをした」と語っている。
一方、フォードは「ヤリス似」だったリアの空力処理を以前の物に戻しており、予想された効果が充分に発揮されなかった(又はバランスが宜しくなかった)様だ。
SS1Turkey(2.45km)はマルマリスの市街地東側のヨットハーバー沿いの道路を含む市街地を走行する。このSSのみ路面がターマックだ。
最初のSSを制したのはアンドレアス・ミケルセン/アンデルス・ヤーゲル組(ヒュンダイ i20クーペWRC)で、後続に2.5秒の差を付けた。
2位はクレイグ・ブリーン/スコット・マーティン(シトロエン C3 WRC)組、3位にオット・タナク/マルティン・ヤルベオヤ組(トヨタ ヤリスWRC)だが9位のラトバラ組迄が4秒の間にひしめく混戦となっている。
●Day2(9/14 Fri)
この日は6SS合計145.1kmでマルマリスの北部、全行程427.71kmを走行する。
最初のSS2”Cetibeli1”の全長は38.10kmと今大会最長のSS。シトロエンのブリーン/マーティン組がトップタイムを叩き出し、総合トップに立つ。ブリーン・ミケルセン・オストベルグと、シトロエン・ヒュンダイの「目立たない方」が上位を占める。
SS3 Ula1(21.90km)では、ヌービル組がこのイベント初のトップタイムを奪う。2位はオストベルグ、3位はオジェ。走行順1,2番の選手が速い。通常はグラベル路面では走行順の早い車が砂利・埃の掃除役となり不利を被るので意外な展開である。
SS4 Cicekli1(12.55km)ではヌービル組が、SS5 Cetibeli2(38.10km)ではオジェ組がトップタイムを刻み、ランキング上位争いを繰り広げるエース格の実力を見せつける。SS5終了時点でオジェ組は総合2位、ヌービル組が3位に浮上する。
SS5ではカリド・アリ・カシミ/クリス・パターソン(シトロエン C3WRC)がメカニカルトラブルでリタイア。ワークス勢の一角が早くも崩れる。
2ループ目となるSS6 Ula2(21.90km)ヌービル組がトップタイムで総合2位に浮上。SS4終了時点で13秒以上有ったトップミケルセン組との差が1.9秒迄迫る。ここでエルフィン・エバンス/ダニエル・バリット(フォード フィエスタWRC)が足回りを岩にヒットさせデイリタイアを喫した。
SS7 Cicekli2(12.55km) タナクが今大会初のステージウィン。この日の総合順位はヌービル-オジェ-ミケルセン-ラトバラ-タナク-パッドン-ラッピと続いた。ランキング上位陣が路面の掃除役をものともせず順当に走り続けた。
●Day3(9/15 Sat) 6SS 134.20km/全行程306.08km
この日最初のSS8 Ysilbede1(34.24km)で首位のヌービル組はSS8でフロントサスペンションを破損、ダンパーがボンネットを突き破るアクシデントを起こし、デイリタイアを喫する。オストベルグ組も駆動系のトラブルでデイリタイア。トップがいきなり脱落する大波乱が起きる。
トップタイムはオジェ組、2位は22.5秒差でタナク組、3位にミケルセン組。総合でもオジェ-ミケルセンのヒュンダイ1-2となる。
SS9 Datca1(10.70km)もヒュンダイのミケルセン組がトップタイムを奪うが、タナク-ラトバラのトヨタ勢も2,3番手につける。目下最大のライバル脱落でトップに立ったオジェ組だが、SS走行中にフィエスタWRCのステアリングアームにトラブルが発生し、トップから18秒遅れの7番手に止まった。
SS10 Icmeler1(20.40km)では、オジェはリエゾン(一般道の移動区間)中にメカニックのアドバイスを受けマシンを修復、遅着となるもSS10のTCに辿り着いた。60秒のペナルティを受けた後、SS10でトップタイムを奪い、総合4位に踏み止まる。SS2位のミケルセン組が総合首位に返り咲く。36.3秒差で2番手にタナク組、その2秒差でラトバラ組のトヨタ勢が付ける。だが、30秒を超える差は容易には詰められない間隔だ。
一方、順位を6位迄上げていたラッピ/フェルム組はコース脇にスタックしてしまい、デイリタイアとなった。全てのファクトリーチームでリタイアが発生し、完全にサバイバルラリーの様相を呈している。
SS11 Ysilbede2(36.00km)からオジェの挽回…が期待されたが、コースアウトを喫し痛恨のデイリタイアとなる。SS開始時点で再びトップに立ったミケルセン組だが、i20WRCに駆動系トラブルが発生し、スピン。更にFR駆動となっており28:54.5に止まる。トップのタナク組から、1分42.2秒遅れの11番手にとどまったミケルセン組は4位に陥落する。ラトバラも2位に浮上し、トヨタは1-2体制を築く事に成功する。
また、序盤から上位を守っていたブリーン/マーティン(シトロエン C3 WRC)組に車両が全焼するアクシデントが発生する。シトロエン勢は速さを見せつつも全車をトラブルが襲い、上位争いから後退した。
SS12 Datca2(10.70km)はラトバラ組がこのイベント初のステージ優勝。2位は再出走のエバンス組、3位にタナク組が入る。総合でも3位に浮上したパッドン組を引き離し始める。SS13 Icmeler2(20.40km)はタナク組がステージ優勝を飾り、波乱のデイ3を締め括った。
2位のラトバラ組は13.1秒差。3位のパッドン組とは57.1秒差と大きな差を付けた。4位スニネン組は更に2分11.7秒後方、5位ミケルセン組は更に3分3.2秒後方。オジェ・ヌービル・オストベルグの各車は翌日の再出走を目指し、修復が行われる。一方、軽傷見とられていたラッピのヤリスWRCは翌日の再出走迄の修復が困難との判断でリタイアとなった。
●Day4(9/16 Sun) 4SS 35.53km/全行程135.77km
前日デイリタイアを喫したヌービル組・オジェ組が大量ペナルティを受けて再出走。ヌービル組は1位から37分遅れの総合18位,オジェ組は21分遅れの12位で、SSの距離が短く上位入賞は望めないものの、再出走で最終SS:パワーステージのボーナスポイント獲得を目指す。
SS14 Marmaris1(7.12km)ヌービル組がトップ、オストベルグ組が2位、オジェ組が3位と再出走組が上位を占めた。
SS15 Ovacik(8.04km),SS16 Gokce(13.25km)とオジェ組が意地の連続トップ、以下オストベルグ-タナク-ラトバラ-エバンス-パッドンと「1-6位の顔ぶれが全く同じ」と云う事態が起きたが、総合1位のタナク組,2位のラトバラ組の差は17秒。3位のヘイデン・パッドン/セバスチャン・マーシャル組(ヒュンダイ i20クーペWRC)との差は1分越え。トラブルが起きない限り上位の順位はほぼ確定した。しかし、オジェとヌービルが後方から猛追している。
SS17 Marmaris2(7.12km Power Stage)ボーナスポイントの獲得が可能なパワーステージだ。出走5番目のヌービル組が記録した4分59.5秒はそれ迄トップだったオストベルグ組を11秒上回る圧巻のタイムを叩き出す。
8番目のオジェも1.6秒ヌービルに届かない。10番目のミケルセン組は11.9秒遅れでオストベルグにも届かない。11番手スニネン組、12番手パッドン組の上位陣もヌービル・オジェに届かない。13番手ラトバラ組は5分6.0秒で2人には届かなかったが、総合2位以上を確定した。14番手のタナクは…5分3.4秒で3位に滑り込むと総合優勝を確定した!
タナク/ヤルベオヤ組はフィンランド・ドイツに続く3連勝。2位にはラトバラ/アンティラ組が入り、トヨタは復帰後初の1-2フィニッシュを達成した。3位にパッドン/マーシャル組(ヒュンダイ i20クーペWRC)が今季初表彰台を獲得した。6位にはRC2クラスのへニング・ソルベルグが喰い込んだ。へニングは2003年ワールドチャンピオンペター・ソルベルグの実兄。
最終成績
1. オット・タナク/マルティン・ヤルベオヤ(トヨタ ヤリスWRC) 3h59m24.5s
2. ヤリ‐マティ・ラトバラ/ミーカ・アンティラ(トヨタ ヤリスWRC) +22.3s
3. ヘイデン・パッドン/セバスチャン・マーシャル組(ヒュンダイ i20クーペWRC) +1m46.3s
4. テーム・スニネン/ミッコ・マルック(フォード フィエスタWRC) +4m10.9s
5. アンドレアス・ミケルセン/アンデルス・ヤーゲル(ヒュンダイ i20クーペWRC) +7m11.7s
6. へニング・ソルベルグ/イルカ・ミノア(シュコダ ファビアR5) +13m40.6s
7. ヤン・コペッキー/パベル・ドレスラー(シュコダ ファビアR5) +18m25.2s
10. セバスチャン・オジエ/ジュリアン・イングラシア(フォード フィエスタWRC) +20m51.2s
12. エルフィン・エバンス/ダニエル・バリット(フォード フィエスタWRC) +22m09.0s
16. ティエリー・ヌービル/ニコラ・ジルソー(ヒュンダイ i20クーペWRC) +38m46.5s
リタイア
エサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム(トヨタ ヤリスWRC)(SS10 アクシデント)
クレイグ・ブリーン/スコット・マーティン(シトロエン C3 WRC)(SS11 アクシデント)
ドライバーズランキングは優勝のタナクが優勝(25pt)+パワーステージ3位(3pt)で28ポイントを獲得、164ポイントとなった。パワ-ステージ1位で5ポイントを獲得したオジェは総合10位(1pt)にも辿り着き、6ポイントを加算。同ステージ2位のヌービルは4ポイントを獲得。トップ2は可能な範囲内でタナクの急接近に抵抗を見せたが、タナクはオジエ(154ポイント)を逆転、ヌービル(177ポイント)に次ぐランキング2位に浮上した。首位のヌービル迄13ポイントと射程距離に納めた。
総合2位のラトバラ組はパワーステージ4位(2pt)で合計20ポイントを獲得、合計75ポイントでランキング5位に浮上した。ラッピ組はノーポイントだが88ポイントでランキングは4位を維持している。
メイクスランキングは前戦終了時、首位(244ポイント)であったヒュンダイは3,5位(15+10)の25ポイントを獲得し279ポイントにとどまる一方、トヨタは1,2位(25+18)の43ポイントを獲得し、合計284ポイントで首位に躍り出た。フォードは4,6位(12+8)で244ポイントで3位、シトロエンは7,8位(6+4)で169ポイントとなっている。
WRC次戦は、第11戦ラリーGB(グレートブリテン)イギリスのウェールズ北東部のディーサイドをホームタウンとして10月4日から7日にかけて開催される。かつてRAC(Royal Automobile Club)ラリーという名で呼ばれ、長い歴史を誇るイベントだ。ウェールズ中部から北部にかけての森林地帯や丘陵地帯のグラベルロード(未舗装路)にSSが設定される。
秋のウェールズは天候が変わりやすく、雨が降ると路面はぬかるみ滑り易く、霧が発生する可能性が高い難易度の高いラリーだ。
持てる最高の条件が使用出来ない中でも、サバイバルラリーを勝ち抜いたTOYOTA GAZOO RACING。速さだけでなく、強さが備わった事は疑いようが無い。Wタイトル獲得の現実味を帯びてきたTOYOTA GAZOO RACINGから残り3戦、目が離せない。
(川崎BASE・写真:TOYOTA GAZOO RACING/Jaanus Ree/RedBull ContentPool)
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Source: clicccar.comクリッカー