若干26歳の椋本氏が開発責任者となったことで話題となったホンダの軽スポーツカー・S660。発売開始から3年になる今夏、恒久的に販売を行うコンプリートカー「S660 Modulo X」が登場しました。オーナーである筆者としては、このコンプリートカーが大変気になるところ。さっそく試乗してみました。
S660 Modulo Xはホンダアクセスが手掛けるModulo Xシリーズの5代目にして初のスポーツカーになります。S660には発売直後からModuloブランドよりサスペンションやエアロ、ホイールが発売されていました。
もちろんそれらを取り付けてコンプリートカーとして販売できたのでしょうけれど、ホンダアクセスの開発陣はそれをよしとせず、徹底的に走り込みを行って作り上げたそうです。時には雪の日も走ったとか。それゆえに発売までに3年もの月日を必要としたとのことです。
その中でこだわったのは空力。というのも、S660はミッドシップレイアウトを採用するため前後重量配分が理想的な45対55なのですが、走行中は風の影響で後ろ側が浮き上がる傾向になるそうです。これを4輪に対して均一に荷重がかかるようなエアロバランスへと調整したとのこと。
外観で特に目を惹くのがCIVIC TYPE-Rを彷彿させるLEDフォグランプを埋め込んだグリル一体型のフロントバンパー。
よく見ると底面に4か所、内部に2か所、ボルテックス・ジェネレーターを配置され、正面からの空気を積極的にコントロールしています。ちなみに内部に取り込んだ空気は、タイヤハウスに向けられているそうです。東京オートサロン2018の発表後からS660オーナー達より「単品販売してほしい」との声が多く寄せられたそうですが、残念ながら単品販売はしないとのことです。
リアには新車装着率約16%という、アクティブスポイラーを搭載。フロントとリアのエアロバランスを合わせるために、ガーニーフラップが設けられています。
リアには既発売のリアロアバンパーが取り付けられています。
サスペンションは、軽自動車初となる5段階の減衰調整機構を採用。専用工具を用いて簡単に減衰力調整ができ、街乗りからサーキット走行まで対応できるそうです。アフターパーツメーカーの中には30段階調整などのモデルがありますが、細かすぎるが故にかえって調整しにくかったりしますから、この位がユーザーフレンドリーなのかもしれません。
ホイールは既に発売しているMR-R01。SUPER GTでも採用されているものと同じデザインコンセプトのアルミホイールです。ブレーキローターとブレーキパッドも既発売のもの。ブレーキング時に音が鳴りますが、放熱性が高くフェードしにくいのが特徴です。ちなみにエンジン回りはノーマルのS660と同一。点火時期やCVTの変速タイミングも変わっていないそうです。
内装は、黒を基調としたノーマルのS660から一転してボルドーレッド×ブラックを採用。ホンダのTYPE-Rのような赤い色ではないので、落ち着いた雰囲気となっています。シフトレバーはMTではチタンノブ、CVTではワインレッドの本革が使われています。
車両本体価格は285万120円と、S660のαグレードに比べて約60万円アップ! ですが既発売のモデューロアクセサリーをディーラーで買い求め工賃を含めると100万円を超えますので、高いと思っても、考えてみたら打倒なところではないでしょうか。
試乗は御殿場にある道幅が狭く荒れた「長尾峠」で行いました。取材した日は雨が降り、路面コンディションはウェット。さらに霧が出てかなり見通しの悪い状態でした。試乗するにはあまりよくない条件です。
ですが、S660はこのような峠が大好きなクルマ。やや過敏なところが顔を覗かせつつも、車体の小ささ、ミッドシップというレイアウトも相まって、まるでミズスマシのように気持ちよく峠道を下っていきます。S660 Modulo Xに乗り換えると、このミズスマシぶりがさらに加速。明らかにノーマルよるも早く峠を下っていけます。
しかも減衰力設定を最も硬い状態にしても、ノーマルより乗り心地がよいことに驚きます。微振動が減ったためか視界が広くなったように感じるので、安心感がまるで違います。
そしてブレーキがとてもコントローラブルなので、安心してコーナーに侵入できますし、ノーマルに比べて車の挙動がわかりやすいですから「これ以上は無理をしてはいけない」とクルマが教えてくれます。ですので安全に速く、快適に、という夢のような走りが楽しめます。
何より驚いたのはS660の美質である「Quick & Light」がより際立っていること。ハンドルを切った時の切れ味が鋭く、スパッと車の向きが変わるのは快感そのもの! ノーマルのS660に戻ると「こんなに鈍かったかな?」と錯覚するほどです。これほどまでにクイックで楽しい車は、ちょっと思いつきません。
荒れた峠を走った後、近くにあるワインディング道路「乙女峠」を走行しました。
ここで感じたのは、直進安定性の高さ。試乗日は横風が強かったのですが、ノーマルのS660ですと時折ふらついていたのですが、Modulo Xはタイヤが路面に接地している感覚をしっかりと感じ取れ安心感があります。綺麗に舗装された道路での乗り心地を一言でいえば「しっとり」。不快な振動を上手に抑える柔らかさと芯の強さを感じます。
どこかヨーロッパのプレミアムコンパクトカーに似ており、パートナーを隣に乗せても嫌な顔はされないことでしょう。
クルマ好きが作ったスポーツカーで、しかも開発責任者が若いゆえか、時折走りに若さを見せるS660。S660 Modulo Xは3年という時を経て円熟し大人になったような印象を受けました。
先日行われた全日本スーパーフォーミュラ第4戦富士大会の会場で、サポートレースであるN-ONEオーナーズカップに参戦するS660の開発責任者である椋本氏とお話しをする機会がありました。
S660 Modulo Xについて尋ねてみたところ「実はまだ乗っていないんですよ。乗ってみたいんですよね」とのことで、やはり気になっている様子。椋本氏の手を離れて誕生したS660 Modulo Xにどのような感想を抱くのか、とても興味があります。
S660の美質である軽快さはそのままに、しっとりとした乗り心地の良さと、一段階上のコーナーリングスピードを手に入れたS660 Modulo X。現在のオーナーはもちろんのこと、いろいろなクルマを乗ってきた方にこそ、この車に触れてほしいと思います。軽自動車やコンパクトカーに対するイメージが変わること間違いナシです。
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Source: clicccar.comクリッカー