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McLaren Speedtail
マクラーレン スピードテール
REPORT/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)
まさに「機能」と「美」の両立!
イギリスのロンドンからも比較的容易にアクセルできるウォーキングという街に、マクラーレン・グループは現代的な社屋を構えている。今回この地を訪れたのは、マクラーレンから新型アルティメット・シリーズとなる「スピードテール」を事前に内覧するチャンスを得たからだ。ちなみにマクラーレン、正確にはマクラーレン・オートモーティブのプロダクションモデルは、「スポーツ」、「スーパー」、「アルティメット」の各シリーズに系列化されており、その中でさまざまなモデルが存在している。スピードテールは、P1、P1GTR、セナ、セナGTRに続くアルティメット・シリーズの新作だ。
スピードテールの生産が行われるMPC、そしてP1もそうだったが、アルティメットシリーズでは、ペイントなど一部のプロセスを担当するMTC=マクラーレン・テクニカル・センターを簡単に見学すると、ようやくスピードテールを内覧する時間が訪れた。どうやらそれは、ここからさらにクルマを使って移動した場所にあるらしく、それがどこなのかを知られないためなのだろう、車中でアイマスクを渡されるという演出も用意されていた。
ここでスピードテールに関する、簡単なプレゼンテーションを受けることになったのだが、特に印象的だったのは、それが美しさとテクノロジー、そして速さというものを完璧に調和させることをコンセプトとしたモデルであるということ。その言葉を聞いて即座に考えたのは、ディーヴォの発表時に最高速戦争からの撤退を宣言したブガッティとの対比。現在デリバリーが進むセナも、またその前身でもあるP1も、いずれも究極のコーナリングマシンであることをコンセプトとしていたことを考えると、マクラーレンによる「最初のハイパーGT」と言い切るスピードテールの存在は非常に興味深く、またミステリアスにさえ感じる。
最高速を追求したGT=グランドツーリングというコンセプトを最も的確に表現しているのは、やはりそのエクステリアデザインだろう。実際に見るスピードテールは、そのネーミングが物語るとおり、リヤセクションの造形に最も大きな特徴がある。ボディパネルはもちろんフルカーボンだが、感動的なのは左右のフェンダーからテールエンドまでが一体成型されているリヤセクションの造形だろう。フロントのボンネットラインからフロントウインドウ、左右のディヘドラルドアと一体化されているルーフ、リヤガラスを経てリヤエンドへとスムーズに流れるラインは、まさにこのスピードテールのデザインのハイライトともいうべきもの。同じアルティメットシリーズでも、P1やセナとは異なる優雅さが演出されている。リヤウインドウのセンターに備わる、LEDを使用した縦長のハイマウントストップランプなども、その優雅さを感じさせる重要なデザイン要素だ。
エアロダイナミクスを最適化するための新しいテクニックが採用されていることも見逃せない。フロントの20インチ径10スポークホイールには、F1マシンでも採用例があるカーボン製のカバーが組み合わされ(カバーの装着されない後輪は21インチ径)、これはフロントスポイラーの脇から前輪に流れてくるエアを整流すると同時に、ホイールアーチ内のエアを効率的に排出するための役割を、ドアサイド前方のダクトとともに担っている。左右のサイドミラーはコンパクトな格納式で、これは後で解説する「ヴェロシティ」モードを選択した時、もしくは駐車時には格納される仕組みだ。
そしてもうひとつ見逃してはならないのが、テールエンド左右のボディパネルをエルロン=フラップとして流用していることで、これは走行状況に応じて油圧制御によって最大26度ライズアップさせるもの。マクラーレンはすでに連続6ヵ月にも及ぶ耐久テストを行っており、結果どのようなペイントでも終了後の品質には変化がないことが確認できたという。
スピードテールの全長は5137㎜。全幅や全高のデータは現在の段階では発表されていないが、全幅はP1より狭いとリリースにはある。ちなみにP1のスリーサイズは、全長×全幅×全高で4588×1964×1188mm。実際に両モデルを比較すると、縦横比はかなり異なったものに見えるだろう。それがマクラーレンの考えるアートであり、またエレガントの表現なのだ。マクラーレンは、スピードテールのデザインモチーフを「ティアドロップ」、すなわち「涙形」と説明するが、なるほど特に高い位置から全景を見た時のシルエットは、その言葉から想像するとおりに美しい。
またエンブレムは、いかにもアルティメットシリーズの新作らしく、MSO=マクラーレン・スペシャル・オペレーションズが独自に開発した、18カラット・ホワイトゴールドと、カーボンの組み合わせによるスペシャルなものを装着することが可能とされる。
インテリアのデザインも斬新だ。コンセプトカーのBP23の段階から、かつてのF1ロードカーにインスピレーションを得た、ドライバーシートをセンターに、そしてその左右にパッセンジャーシートをレイアウトするキャビンが想定されていたが、それは見事に現実のものとなった。スピードテールの基本構造体となっているのは、もちろんカーボンモノコックのモノケージだが、ドライバーシートはもちろんのこと、パッセンジャーシートも一体化して成型されている。かつてのF1ロードカーのコクピットは、まさに走りを楽しむためのストイックな場所といったイメージだったが、スピードテールのそれはグラスルーフを採用したこともあり、キャビンの開放感は想像する以上に大きい。
また居住性にも優れた空間に変化を遂げていた。左右の格納式カメラからの画像は、ダッシュボード左右のモニターで確認することが可能。ほかにも最新のモニターを使用し、操作性に優れたコクピットデザインが行われていたことが印象的だった。フロントガラスの上部はエレクトロニック・ガラス。ドライバーは透過率を自由に調節できるので、サンバイザーを使用する必要もなくなった。
ミッドに搭載されるパワーユニット、そしてシャシーの詳細に関しては、今回は多くの発表はなかったが、4リッター仕様のV型8気筒ツインターボエンジンと7速DCT(SSG=シームレス・シフト・ギアボックス)からなるパワーユニットにエレクトリックモーターを組み合わせ、最高出力で1050psを達成。駆動方式はRWDであることが判明した。P1が903ps、セナが800psという数字であったことを考えると、これは相当に衝撃的なスペックといえる。
このパワーが負担するドライウエイトは1430kg、こちらはP1とセナでは1395kg、1198kgとなるが、それでも0→300km/h加速は12.8秒と、P1の16.5秒をはるかに超越しているのだ。注目の最高速は403km/hに達するという。
このオーバー400km/hの最高速度にチャレンジするためのモードが前で触れたヴェロシティ・モードだ。ドライバーがこのモードを選択すると、まずハイブリッドシステムを含めたパワーユニットは、そのパフォーマンスをフルに発揮する制御へと移行。同時にアクティブ制御されるサスペンションも高速走行のための準備として、車高を35㎜低下させると同時にスセッティングへと変化する。
さらにエアロダイナミクスを最適化するために、リヤのエルロンはドラッグをミニマムに、すなわちダウンフォースを抑えるセッティングに変更される。左右のミラーも格納され、これによりボディサイドの乱流も軽減されることになる。そしてドライバーは、マクラーレンにとっても史上初のオーバー400km/hの世界に挑むことが可能となるのだ。
スピードテールの誕生で始まった、マクラーレンのTRACK25戦略。実際にそのすべてが現実のものとなった時、マクラーレンはどのような自動車メーカーへと成長を遂げているだろうか。スピードテールを事前に内覧するためにウォーキングの本社を訪れた前日、マクラーレンは購入したカスタマーを招き、同様にプレビューイベントを開催したという。スピードテールのプライスは175万ポンド(税抜)で、生産台数はかつてのF1と同数の106台。その106人のカスタマーのうち、実に72人がこのイベントに出席したという。
マクラーレンというブランドとカスタマーとの間には、これまでのわずか7年間で、すでに深い信頼が生まれているようだ。それを象徴する存在であるのが、特別な中にも特別なマクラーレンにあたるアルティメットシリーズということなのだろう。
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Source: clicccar.comクリッカー