’17年に開催されたミラノショーで発表の「F850GS」と「F750GS」。その国際試乗会で両車に乗ることができた。フルモデルチェンジを受けた両車は共通の車体とエンジンを持ちながら異なる個性を持っている。 ※ヤングマシン2018年6月号(4月24日発売、一部加筆)より
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並列2気筒Fファミリーの従来型には3車種が存在
BMWのFシリーズは、360度クランクを持つ798㏄の並列2気筒ファミリーとして存在していた。ツーリングモデルの「GT」、ネイキッドの「R」、そしてアドベンチャーモデルである「GS」をラインナップ。なかでもGSは共通のエンジンとフレームを持ち、足まわりを変更することでオフロードでの走破性を高めた「800」と、オンロードでの快適性を高めた「700」の2車種に分けられ、一般的には排気量を意味するモデル名の数字を変えてまで両車を区別しているのだ。
その理由は明確だ。Fシリーズは、BMWの世界観を広める使命を帯びているからだ。従来型のF-GSシリーズが採用していた360度クランクの並列2気筒エンジンは、重心こそ高くなるが、その出力特性はBMW伝統のフラットツインエンジンと酷似し、なおかつ軽量でコンパクトだ。そのコンパクトさを最大限アピールするため、あえて「700」を別モデルのように設えたのだ。それによってフラットツインマシンに二の足を踏んできた多くのユーザーをBMWの世界に引き込んだのである。
フルモデルチェンジでエンジンは853㏄に拡大
今回フルモデルチェンジした「F750GS」「F850GS」は、その後継機種だ。これまで同様、共通のエンジンとフレームを使い、足まわりを変更することでオンロードでの快適性を高めた「750」、オフロードの走破性を高めた「850」と、その個性を分けた。フルモデルチェンジに相応しく、細部に至るまでアップデートされている。エンジンは排気量を853㏄に拡大するとともに、逆回転の270度クランクを採用。シリンダーの前後にバランサーも配置されている。またドライサンプとしながらケース内にオイルタンクを配置することで、エンジンそのものを軽量コンパクトに仕上げている。フレームも一新した。F-GSはこれまでスチールパイプのトレリスフレームを採用していた(GTとRはアルミツインスパーフレーム)。対して「F750GS」「F850GS」は、スチール鋼板を重ね合わせた中空構造のフレーム材でエンジンをつり下げるブリッジ構造。ステッププレートが両持ちスイングアームのピボットとエンジン後端のマウントを兼ねることから、軽量でコンパクトに仕上げられている。
BMWの未来を感じる新型のフィーリング
ここまでの大きな変更によって乗り味は大きく変わっている。まずエンジンは排気量が拡大したことによる力強さに加え、不等間隔爆発としたことでリヤタイヤがしっかりと路面を捉える感覚が強くなり、アクセル操作と直結したように車体を前に押し出していく。このフィーリングは850で走ったオフロードはもちろん、最高出力を抑えている750でワインディングを走ったときにも感じることができた。また軽量コンパクトなエンジンとフレーム、さらには逆回転クランクを採用したことで車体の切り返しが軽く、過度なピッチングが抑えられている。また、フロント19インチホイールを装着した750は、スポーツネイキッドモデルのようにワインディングを走ることができ、そこで不安や不満を感じることはなかった。
「F750GS」「F850GS」は、エンジンとフレームを一新しても、BMWの世界観を広げるモデルとしての使命を引き続き担っている。最新のこの2台に乗れば、今後10年のBMWの未来を感じることができるだろう。
車体/エンジンとも完全刷新、逆回転クランクのメリットは?
ブリッジ構造の新型フレームは、ステアリングヘッドからリヤサスペンション取付位置付近、そしてエンジン上部を三角形で結び、その後端にステッププレートを装備する。またエンジンは、そもそもコンパクトなドライサンプエンジンを採用し、オイルタンクをケース内に収めることで、エンジン単体をさらにコンパクトに仕上げている。並列2気筒エンジンの270度クランクは、ヤマハのMT-07やホンダのアフリカツイン、NC750シリーズなど国産ブランドでも採用例が多いが、逆回転クランクシャフトは例がない。逆回転のメリットは、ホイールの回転によって発生するジャイロ効果の一部を打ち消し、ハンドリングを向上させ、特にコーナー切り返しにおける俊敏性を高められるという。加速では、逆回転クランクシャフトが前方方向に慣性連動トルクを発生させてウィリーを抑制し、加速性能を高めることができる。逆に減速時はリヤホイールがリフトアップするが、クランクシャフトも減速することで、リフトアップと逆方向の慣性トルクが生じるのだ。
文:河野正士/ヤングマシン
写真:BMW Motorrad
Source: WEBヤングマシン