今年もパシフィコ横浜で「人とくるまのテクノロジー展」が開催され、自動車メーカーや部品サプライヤー、IT関連など多くの企業から自動車に関わる最先端製品・技術が発表されました。
ドイツの自動車部品サプライヤーであるゼット・エフ・フリードリヒスハーフェン社(ZF)も、包括的な製品展示を実施。伝統的にオートマチックトランスミッションなどの駆動系やサスペンション関連技術に強い同社ですが、自動車業界のトレンドに対応して電動化やADAS(先進運転支援システム)に関する展示が目立ちました。
今回のイベントにドイツから来日した同社のピーター・レイク取締役に、自動車業界の将来について聞きました。
自動車業界は今、これまで前例のない変革の時代にあり、将来の姿を正確に予測する事はできません。そのような状況ではありますが、まず挙げられるのは、(エネルギー)効率化の追求とそれに伴う電動化ですね。いつ、どんな形で、という事を細かく見通すのは不可能なので、各社はいくつかのストーリーを作りそれに沿って研究開発や製品投入計画を立てています。
例えば、「シナリオA」は電動化がこれまでを大きく上回ペースで進んで行った場合。一方、「シナリオC」は様々な障壁によって電動化が進まないケース。その中間の「シナリオB」は、現在もっとも現実的と考えられるスピードで電動化が進んで行った場合、といった形です。
いずれにしても、電動化は必然的なもので確実に進行するというのが業界全体のコンセンサスです。今のところは、2020年代後半から2030年初頭には、販売される新車のおよそ3分の2程度が何らかの形で電動化されていると予測しています。
ただ、バッテリー技術に多くを依存する航続距離や充電インフラ整備に関する課題、さらに各国政府による環境戦略なども電動化のスピードには大きく影響します。また、いわゆる「ディーゼルゲート」事件が欧州における消費者の志向に大きな影響を与えたように、その他さまざまな要因による「揺れ動き」も起こる可能性が否定できません。
2つめの大きなトレンドは「オートメーテッド・ドライビング」(運転の自動化)ですね。こちらは、電動化よりも業界全体としての方向性が明確です。クルマの安全性向上を実現する手段として、事故が避けられない状況に陥った場合の衝突回避もしくは被害低減を図るための自動化が進められています。
現在は自動車専用道路上の単一車線走行時における運転支援機能が普及し始めていますが、今後はそれが複数の車線でも可能になり、さらには都市部の一般道や駐車作業などにも機能が拡大し、ステップバイステップで確実に進化していきます。
例えば大学や工場の構内における人やモノの移動など、限られた用途・条件下であれば、2020年あたりの近い将来に自律走行やそれに近いレベルの高度な自動運転車両の運用が実現する可能があるとは思います。
しかし、一般社会における自動運転の普及は「ビッグバン」のように一気に進むのではなく、社会や消費者のニーズに一つずつ対応する形で徐々に進行していくでしょう。電動化と同様に多くのシナリオが考えられていますが、業界で一般的な考えは2030年頃でも高度な自動運転機能を備えた車両は全体の10~15%程度と予測しています。
3つ目の大きな流れは安全性能の向上でしょう。運転の自動化と一部オーバーラップしますが、これまでの衝突安全(パッシブ・セーフティ)機能と予防安全(アクティブ・セーフティ)機能を合わせた、統合安全の考え方が非常に重要になると考えています。
例えば当社では、ADAS用のセンサーとAIを活用し、衝突が避けられないと判断した場合にはクラッシュの直前にシートベルトを巻き上げて衝撃を軽減する機能を開発しました。
先進国、途上国を問わず毎年とても多くの人命が交通事故で失われています。発進から停止までに発生する前後、左右、上下の動きを総合的に制御し、安全、快適かつ環境に優しいクルマの実現をサポートするために、電動化を含めた駆動系の制御、安全装置の統合と進化、運転の自動化といったあらゆる機能を総合的に開発・制御する事が自動車業界には求められてくるでしょう。
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世界各国で行われているCO2排出量の削減に向けた取り組みは年々重要性を増しており、自動車業界にも責任ある対応が求められます。同時に日本では、維持費の高さや趣味の多様化などにより若者のクルマ離れが頻繁に語られています。さらに過労や高齢による事故も増加しており、クルマを取り巻く社会状況は激動の時代を迎えています。
そんな中、自動車業界はエネルギー効率の改善、安全性と快適性・利便性の向上に向けて進んでいます。テクノロジーの進化によって、安全、快適で運転して楽しいクルマに、もっと手ごろなコストで乗れるようになることを期待しましょう。
(Toru ISHIKAWA)
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Source: clicccar.comクリッカー