EV(電気自動車)シフトが報道を賑わしている。フランスや英国が「2040年にガソリン・ディーゼル車の販売禁止」を打ち出したことがきっかけだ。その動きに呼応するかのように欧州を中心に自動車各社はEV戦略を喧伝(けんでん)し始めている。
ガソリン車やディーゼル車がEVに置き換わっていくとしたら、石油など一次エネルギーの供給構造にどのような影響を及ぼすことになるのだろうか。
国や自動車メーカーで異なる思惑
同じようにEVシフトを打ち上げていても、国や自動車メーカーにより、それぞれの思惑は異なる。発表の仕方を見ていると、フランス政府は「CO2削減」を第1の目標に掲げているのに対して、英国政府は「NOx(窒素酸化物)などによる都市部の大気汚染の緩和」に重きを置いている。
1つ言えることは、英国とフランスに共通することとして、自動車産業の国際競争力はさほど強くないということだろう(2016年の自動車生産台数でフランスは11位、英国は13位)。だからこそ、このような大胆な宣言ができたのではないか。
逆に自動車産業で競争優位に立ち、環境技術としてのハイブリッド技術で先行する日本やドイツの政府は、EVシフトには相対的に慎重な姿勢をとっているように見える(2016年の自動車生産台数で日本は3位、ドイツは4位)。
そう考えれば、英国やフランスは、自国の自動車の国際競争力や環境技術の劣位を逆手にとった面は否めない。
ドイツの自動車メーカーが打ち出しているEV戦略は、主に中国市場をターゲットにしたものだ。国内や欧州市場向けでは、これまでHV(ハイブリッド車)の対抗軸と位置づけてきたディーゼル車がフォルクスワーゲン(VW)の不正によって傷つき、EV戦略はしぶしぶ打ち出したという感さえある。メルケル首相は「2正面作戦」とコメントしている。
一方、あまり明示的には触れられていないものの、EVシフトを目指す多くの国にとって究極的に重要なのは、将来の石油供給に対するエネルギー安全保障上の懸念だろう。
再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいる。とはいえ、世界のエネルギー供給の8割は依然として石油、天然ガス、石炭といった化石燃料に依存している。自動車用燃料に至ってはほぼ100%が石油である。そして、化石燃料の中で最も早くに供給懸念が出てきそうな(既に出始めている)のが石油であり、石油への依存を少しでも減らしたいと考えるのは国家戦略としては当然だろう。
米国のトランプ政権は、シェール革命を背景に石油産業を振興し、むしろ石油の輸出を外交カードとして活用する姿勢さえ見せている。EVシフトへの関心は薄い。
しかし、シェールオイルの供給は2020年代にもピークを迎える(この問題は稿を改めて取り上げたい)。トランプ政権の間は大きな懸念に至らないかもしれないが、長期的に安心していられる状況ではない。
中国は自動車でも輸出大国を目指してきたが、国際市場で競争力を獲得するまでには至っていない。むしろ世界一の自動車市場であるがゆえに国内の石油消費が急増し、石油の輸入依存が拡大してしまった。
だからこそ中国は早くから「脱石油」や「対HV戦略」としてのEV普及を推進してきたが、いまや生産台数で世界一となった自国の自動車産業への配慮を欠かすことはできず、これまでのところ急進的な「ガソリン・ディーゼル車の販売禁止」を打ち出すまでには至っていない(一部では、2025年の販売禁止を検討しているとも伝えられている)。
昨今、急速な盛り上がりを見せているEVシフトだが、つぶさに見れば、国や自動車メーカーによって立場や狙いは微妙に異なる。
そうした中、日本がEVシフトに乗り遅れることを懸念する声が聞かれる。
だが、あえて言えば、ハイブリッド技術やEV技術で先行しているがゆえ、包囲されてしまった状況と見ることもできよう。むしろ、日本はEVでも技術や政策面で先を走っていた。だが今回、欧州勢がEV普及のリーダーに見えるようになったとしたら、挽回策としては見事なイメージ戦略と言えるかもしれない。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700115/112800056/?ST=editor
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Source: 新型車情報局