自動車工業会の会長に就任したトヨタ自動車の豊田章男社長は、就任後の記者懇談会で「自動運転をしようとすれば今の法規だと様々な問題が出てきます」。概要をまとめると、実際の走行状況と道交法は乖離しており、そのあたりを調整することなく混在させようとしても難しいということである。
この課題、自動運転の開発現場ではずっと「難しい!」と言われてきた。「よくぞ自動車工業会の会長として発言してくれた!」と大歓迎されているという。具体的に紹介してみたい。まず大きな問題になるのが制限速度だと言われている。例えば首都高の制限速度は都心環状線の大半が50km/h。
それ以外も多くは60km/h制限だ。渋滞している時間帯を除くと、ほぼ全ての車両が制限速度を超えている。皆さん流れに乗り、道路交通法の基本理念である「交通の安全と円滑な流れ」を守っているということ。走行車線であっても20km/hオーバーが日常といったイメージ。
自動運転車は速度違反など絶対に許されない。追突される危険性あっても、渋滞の原因を作り出すといった状況になっても、50km/h制限区間は厳守しなければならないのだった。首都高に限らず、日本の制限速度は実際の走行速度と関係ないため、後続車のイライラを買うことだろう。
カーブの手前に制限速度表示があるような場所も大きな問題になる。海外で運転したことのある人なら御存知だろうけれど、カーブの手前に「30km/h」と表示されていたら、本当に30km/hまで速度を落とさないと曲がれないカーブが出てくる。制限速度を「物理的」に決めている、ということ。
けれど日本は「感情的」に決め、さらに大甘の速度制限を乱発するため、30km/hの標識が出ていても60km/hで曲がれてしまう。前後区間の制限速度が60km/hなら、皆さん速度落とさない。一方、自動運転車は必ず30km/hまで落とさなければならず、これまた円滑な交通の流れを乱すことになる。
はたまた基本設計が古く、短い助走距離しかない合流車線も多数。本来なら本線を走っている車両に優先権あるのだけれど、実状は危険を避けるため流入車優先という状況。自動運転だと本線車両が優先という前提あるため、流入車はいつまで経っても本線に入っていけない。
その他、実際の交通状況と道交法が乖離している「現場」は無数に存在する(そこで取り締まられることも多く、結果的に警察嫌いになる)。自動車工業会の会長は「自動運転の技術を磨くことも重要ながら、道路環境も見直さなければ難しい」と言っており、その通りだと思う。
我が国の政府は2020年までに自動運転を実現するとしている。実状に見合った道路法規を作っていかない限り、自動運転は道路上の危険や渋滞やフラストレーションを拡大する一方だと考えます。現在の道路法規のままで実現することなど出来ないだろう。
(国沢 光弘)
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