リーフといえば、世界的にもっとも売れている電気自動車(EV)の一台であり、またフルモデルチェンジにより進化した量産EVです。2017年のフルモデルチェンジでは、バッテリー総電力量を40kWhに増やし、最大航続距離を400km(JC08モード)に伸ばしたことが話題となりました。
基本的なプラットフォームはキャリーオーバーですしモーターも同型式ですから、単純にバッテリーを大きくした分だけ航続距離が伸びていると思いがちですが、そうとは限りません。
フルモデルチェンジ前のモデルは、バッテリー総電力量30kWhで航続距離280㎞だったのです。単純にバッテリー総電力との比率でいうと、新型の航続可能距離は375km程度までしか伸びません。つまり、バッテリー総電力を増やした以外の部分でも航続距離が伸びるような工夫がなされているというわけです。
その一つが空力性能の進化です。今回、日産自動車で空力や風切音などの開発を担当している高木 敦さん、燃費や動力性能について担当している松井弘毅さんのお二人にリーフの空力性能における進化、とくに世界初というアプローチについてうかがうことができました。
まずエンジンを積んだクルマとEVにおける大きな違いとしてエネルギー損失における空気抵抗の比率が大きいことが挙げられます。
同じ形状であれば空気抵抗の絶対値はパワートレインがエンジンであろうが、電気モーターであろうがそれほど変わりませんが、エンジン車では熱エネルギー損失や引き摺り損失が大きいために空気抵抗の影響は相対的に小さめになります。それに対して、熱エネルギー損失がほとんどないEVでは空気抵抗による悪影響は大きくなってしまいます。
「高速走行でのエネルギー損失については、エンジン車では空気抵抗の比率は13.3%ですが、EVでは59.3%になります」
このように解説いただいたのは松井さんです。つまり、エンジン車であれば熱エネルギー損失を減らすことで燃費を改善する余地がありますが、EVについては空気抵抗を減らすことが航続距離を伸ばす(電費を改善する)ことにダイレクトに効いてくるというわけです。
かなりスタイリングが変化した新旧リーフ、しかし空力性能におけるポイントになってくるのは目に見えない部分。アンダーカバーにあると説明するのは高木さんです。
「もともとモデルチェンジ前のリーフでも大きなアンダーカバーは付けていましたが、新型ではさらに低床化(グランドクリアランスの低減)をしています。また、トーションビームの後輪サスペンションに風が当たることで乱れがあったのを防ぐよう、サスペンション手前の部分を跳ね上げ形状として、トーションビーム回りでの乱流を減らしました。これにより空気抵抗としては約4%低減しています」
床下の流速を稼ぐことで、ボディ上面などを流れてきた風との合流地点を低くすることができ、それが空気抵抗の改善につながったということです。
空力チームが尽力したのはカタログ性能だけではありません。風洞実験などでわかる空気抵抗は無風状態で直進している状態ですが、実際には様々な方向から風が吹いています。追い風のこともあれば向かい風もあり、また横風の影響もあります。
そして、新型リーフの空力ボディにおいては、その中から横風の影響も検討時の条件に加えているというのです。横風といっても、高速巡行時においては正面からの影響が大きく、様々なデータ分析から進行方向に対して4度ずらした風を当てることでリアルワールドでの最頻値を再現できることがわかったといいます。
そうした条件での実験で判明したのは、リアサイドスポイラーの影響が少なくないことでした。
一般に、直進時の空気抵抗減を考えるとサイドスポイラーは長めにしたほうが有利ですが、横風を考慮すると大きなサイドスポイラーでは乱流が強くなってしまいトータルとしての空気抵抗ではマイナスになってしまいます。そこでリアサイドスポイラーの形状を工夫することで乱流を減らすことができたというのが、新型リーフにおける空力ボディのトピック。これにより実用航続距離が約1%も改善したといいます。
こうした工夫を積み重ねることで、新型リーフは航続可能距離400kmを達成したのです。
(山本晋也)
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Source: clicccar.comクリッカー