120周年目の節目にも関わらず、開催前のモンディアル・ドゥ・ロート・パリ(通称パリサロン)には早々と欠場メーカーのリストが長々と連なっていた。フォルクスワーゲン、ボルボ、フィアット、マツダ、アルファロメオ、フォード、オペル、日産に三菱。ルノー日産のようにグループ内の別ブランドが出展している例もあるし、出展メーカーとはいえ地元の販売会社、つまりディーラーが代表していた例もなくはない。
だがモーターショーが、オワコンであるとする理由が、今やインターネットを通じて見たいものが瞬時にスマホで集められるから行く必要がないとか、あるいは多くの自動車メーカーが昔ほど大きな予算もエネルギーも投入しなくなったから、そんな利便性や功利主義に拠った言い分は、もはや賢くないし品位に欠けるともいえる。見本市がそもそもサロン文化に起源を遡ることを鑑みれば、人が遠くから足を運び、迎え入れることの貴重さは、手元でデフォルトの利便性が増した世界だからこそ、価値を増すばかりなのだ。
実際、パリサロン前夜、エリゼ宮つまりフランス大統領府では、信じられない情景が繰り広げられた。ルノー日産の会長カルロス・ゴーンにPSAグループ会長のカルロス・タヴァレス、ダイムラーのCEOディーター・ツェチェ博士に欧州レクサスのNo.2であるディディエ・ルロワ、その他にも自動車業界のトップおよそ20人が、同じディナーの席に招待されたのだ。ディナーの主宰者は他でもない、エマニュエル・マクロン仏大統領だ。かくして120周年目の記念開催を迎えたパリサロンに出展した自動車メーカーやパーツサプライヤは、EUの方向性に大きな影響をもつ男とのパワーディナーという僥倖を得た。欠場したメーカーに対する意趣返しの香りすら漂うのが、とてもフランス的だと思う。
ちなみにマクロン大統領はプレスデイの2日目午後、何と3時間もフランスの自動車メーカーやパーツサプライヤのブースを中心に、パリサロンの会場を訪れた。ピュアEVやPHEVの市販モデルが欧州で続々登場し、いよいよ普及拡大期に入りつつある今、CO2削減や代替エネルギーへの転換でEUにおけるリーダーシップを握りたい仏大統領にとって、その新たなルール作りや施策の練り込みのために、欠かせない視察だったのだろう。
その夜は当然、地元フランスのテレビやニュースサイトでは、ありとあらゆるフランス車のEVやPHEVモデルのドライバーズシートに収まって、ニッコリ笑うマクロン大統領の姿が続々、映し出された。開幕前日にまたとないプロモーションというだけでなく、実質的にPHEVやEVへの買い替えシフトを、つまり新車購入の際の「電化」の選択を促しているといえる。会場にはプジョーE-LEGENDのようなコンセプトEVや来年市販予定のDS 3クロスバックE-TENSEといったフランス勢だけでなく、メルセデス・ベンツEQ Cやアウディe-tron、ジャガーI-ペース、テスラ・モデル3といった他国の自動車メーカーの市販EVも出揃ったので、パリサロンはショーケースとしての役目を果たしたといえる。
かくしてパリサロンは、欠席メーカー多数の割には、意外と盛り上がっている。もはや「パリは燃えているか」ではなく、内燃機関の卒業に向かって静かに「通電が始まっている」のだ。一般公開でどうなるか、楽しみだ。
(南陽 一浩)
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Source: clicccar.comクリッカー