独自の低床レイアウトによる広大なスペースと、便利な導線や開口部を実現したセンターピラーレスの採用が話題のホンダ・N-VAN。使う人の意見を徹底的に集約した結果見えてきたデザインとは何か。担当デザイナーに聞きました。
── まず全体のお話から。最終的にベースとなったN-BOXと近似性を感じる外観となりましたが、造形上での制限などはあったのでしょうか?
「それはありません。そもそも、私たちにはN-BOXに似ているという認識もないのです。たしかに、初期にはこれと異なるスケッチもありましたけど、あくまでも「スクエア」「しっかり」「フレンドリー」の3つのキーワードに沿ったスタイルということです」
── でも、N-BOXも文字どおり「スクエア」がテーマですよね?
「ええ。ただ、N-BOXは乗用車ですから乗員の快適性を重視した空間で成り立っています。一方、N-VANは荷物を積んで運ぶことが目的ですからパッケージングがまったく違う。たとえば、ボディ断面の形状などは同じようで相当異なっている。もちろん、同じメーカーとしてのテイストの近さはありますが」
── 次に各部分です。Aピラーからホイールアーチに下るラインはボディのフロントとサイドを分けているように見えますが、線を引くならもっと明快でもよかったのでは?
「正確には、人やモノを積む部分とエンジン部分とを分けたということですね。たしかに、かつてのステップバンのような表現もありますけど、N-VANではここに切り込み線を入れる機能的な理由がないんです。今回はあくまでパッケージに沿った造形に徹していますから、必要のないことはやらないと」
── スクエアな表現なら、フードをもっと持ち上げると、より「箱」な感じになると思いますが?
「それも同じで、エンジンなど機構部がコンパクトなのでわざわざ高くする必要がないんです。また、先の「フレンドリー」につながりますが、配達などで狭い路地に入った際、周囲に威圧感を与えたくない。フロントフェイスのシンプルな造形も含め、安心感を意識したわけです」
── 3本のビードはジュラルミンのスーツケースがモチーフだそうですが、道具感の表現が目的ですか?
「それもありますけど、ドアパネルの強度を確保するため、ビードの上下の面にそれぞれピークを持たせ、断面を「3」の字にしています。また、スーツケース同様ビードは凸面の方が傷が付きにくい。当初は全幅が厳しく凹面だったのですが、ピークを工夫して凸面に変更しました」
── 今回は仕事以外の使い方も提案していますが、であれば「+STYLE」シリーズはもっと各々の特徴を持たせた方がよかったのでは?
「COOLなど、当初はもっと派手にしていました。ただ、このクルマを使うユーザーさんには押しつけのカタチはNGなんです。自分で手を加えるのはアリですが、変に「用意」した途端振り向いてくれなくなる。このあたりは非常にシビアで微妙なんです」
── インテリアですが、オーディオや空調、シフトパネルなどがポンポンと別個に配置されているように見えるのは意図的ですか?
「そうです! インテリアはフラットな壁に「棚」を配する非常にシンプルなコンセプトなんです。その棚にそれぞれのパーツを置いていくイメージで、あえて一体化は避けています」
── 最後に。今回は徹底的なリサーチを元にしてブレがありませんが、かつてのシビックやビートなど、ホンダの名車はどれも表現にブレがありませんでした。今回は、あくまでも商用車だからこその明快さだったのでしょうか?
「それもありますが、それこそNやT360から、ホンダのクルマは伝統的にパッケージングから造形をつくってきた。だから、パッケージが的確な企画はヒット車につながるとも言えますね。N-VANが各方面からホンダらしいと言われるのも、それが理由なのかもしれないですね」
── セダンやスポーツカー、あるいは商用車など、徹底したコンセプトワークはどの車種でも必要ということですね。本日はありがとうございました。
【語る人】
株式会社本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン室 1スタジオ
主任研究員 山口真生(写真左)
研究員 加藤千明(写真右)
(インタビュー・すぎもと たかよし)
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Source: clicccar.comクリッカー