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ロイヤルエンフィールド ヒマラヤンの試乗インプレッション

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ヒマラヤンはインドの2輪メーカー・ロイヤルエンフィールドの手によるアドベンチャーモデル。発表は‘16年だが、今年から日本への導入が始まり、懐かしさを感じさせるルックスや車体構成が注目を集めている。そのインプレッションをお届けしよう。

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目次

実は超巨大メーカー?

BMWは約16万台でドゥカティが約5.5万台。ハーレーで約24万台。これは主な海外メーカーの、‘17年度の総生産台数だ。それらを差し置いて、’16年度に約66万台を生産し、’17年度はなんと80万台に達しようかという海外の2輪メーカーがある。インドのロイヤルエンフィールド(以下RE)だ。

同社は純粋なモーターサイクルのメーカーで、スクーターやアンダーボーンなどのコミューターを作っていないのはドゥカティやハーレーと同じ。それでいてこの数字というから驚かされるが、さらに凄いのはその伸長率。年産6〜7万台のレベルから、ここ10年くらいで冒頭の数字へ急成長を遂げているのだ。ほぼ自国内だけでこの台数をさばくというから、人口13億人というインドのポテンシャルを思い知らされる。REはインド国内の250〜750ccクラスで、なんと95%という驚きのシェア(‘16年度)を誇るのだ。

そんなREの主力製品は350/500ccの単気筒を積む「ブリット(Bullet)」だ。そもそもREは19世紀半ばにイギリスで創業した機械部品の製造会社が基で、1901年に第一号のモーターサイクルを製作。1940〜50年代には全盛期のトライアンフなどとも競合するメーカーにまで成長したが、その後は他の英国メーカーと同じく日本車に押されて衰退し、1970年に倒産している。

【ロイヤルエンフィールド・ブリット500EFI】499ccの空冷OHV単気筒を積むREの基幹モデルで、現行型はユーロ4にも適合。前19/後18インチタイヤを持つ車体は見ての通りクラシカルな仕立て。本国には350cc仕様も存在する。

しかしREの場合、1954年にインド工場を設立していたことが幸いする。イギリスの本社が倒産した後もこの「エンフィールド・インディア社」が、‘50年代のブリットをほぼそのまま、主にインド国内の需要を満たすために生産し続けてきたのだ。その生産権や、『ロイヤルエンフィールド』というブランドの商標権を‘90年代に取得したのがインド企業のエイカー・グループ(傘下にエイカー・モーターズなどの自動車会社を持つ)であり、現在のREは同グループ内の1企業として存続している。

そんな経緯から、ブリットは‘50年代の基本構成を継承しつつ、今も新車で入手できる希有な1台となっている。エンジンは‘08年に完全刷新されているし、FIやABSも装備してユーロ4もクリアするが、スタイリングに加え、エンジンのボア・ストロークやOHVのバルブ駆動、パイプフレームの構成といったメカニズム面も当時の設計を色濃く受け継ぐ。そんなブリットに加えて、よりレトロな外観を持つ「クラシック」、そしてクルーザーの「サンダーバード(日本未導入)」という3車がREの基本ラインナップとなる。

【ロイヤルエンフィールド・クラシック500EFI】基本構成はブリットと共通だが、サドルシートやツルリとしたリヤフェンダーなどでレトロ感を演出。メッキタンクの「クローム」やつや消しカラーの「ミリタリー(写真)」など、豊富な車体色設定も特徴。ブリット同様、インドには350cc版も存在。

【ロイヤルエンフィールド・サンダーバード500】アップハンドルや肉厚な段付きシートなどでクルーザー仕立てとされたモデル。エンジンなどの基本はブリット系と共通で、500ccと350ccを設定する。

ちなみにインドには欧米の2輪メーカーも進出しており、特にハーレーのストリート500/750(生産もインドで行う)は近年シェアを拡大していて、REも対抗機種となる650ccツインを昨年のミラノショーで発表したばかり。とはいえ、まだまだREが圧倒的なシェアを握るのは前述のとおりで、これはREがインドで長年親しまれてきたのに加え、旧宗主国・イギリス発祥のブランドであることも無関係ではないらしい。そんな事情も関係してか、近年はトライアンフも販売を伸ばしているとのこと。

650ccのRE新モデル「インターセプター」。新開発の空冷648cc・並列2気筒は270°クランクを持つOHC4バルブで、47bhp/7100rpmを発揮。78✕67.8mmのボア✕ストロークを持つショートストローク型だ。このエンジンを前後18インチのタイヤを持つオーソドックスなダブルクレードル&2本ショックの車体に搭載する。

もう1台の650ccモデル「コンチネンタルGT 650」はインターセプターのカフェレーサー仕様で、低めのハンドルやバックステップ、シングル風のシートが特徴。535ccの単気筒を搭載する「コンチネンタルGT 535」の生産終了に伴い、その後継機種という役割も担う。650cc車の日本導入や発売時期は現状未定。

驚異の粘りを見せる新開発シングル

前置きが長くなったが、前出の3車に新たに加わったのがアドベンチャーの「ヒマラヤン」だ。車名はREが‘03年から開催している冒険ラリーイベント「ヒマラヤン・オデッセイ」にちなむものと思われる。これはインドのニューデリーをスタートし、ヒマラヤ山脈を約半月掛けてREで走破するもので、ルートにはなんと5600mを超す高地(車両が走れる道路では世界一標高が高いらしい)も含まれるというハードなラリーだ。

エンジンは411ccの空冷単気筒。ブリットやクラシック系のOHVユニットとは異なる、RE初のOHC(2バルブ)を採用した新作で、78✕86mmのボア✕ストロークを持つロングストロークユニットだ。そう聞くと古臭いエンジンに思えるかもしれないが、1軸バランサーやローラーロッカーアームといったモダンな?機構も備える。インド国内仕様はキャブだが、輸出仕様はFIを採用してユーロ4もクリアする。

9.5の圧縮比を持つ空冷411ccユニット。24.5bhp(≒24.8ps)/6500rpmという最高出力はヤマハSR400(26ps/6500rpm)とほぼ同等。サイドカバー下にはABSユニットが覗く。

エンジン左サイドにはコアガード付きのオイルクーラーも装備する。アルミ製のアンダーガードや、ギザギザの滑り止めを刻むオフロードタイプ+ゴムラバーのステップも昨今のアドベンチャー車の流儀に沿ったもの。

このエンジンがとにかく粘る。1速で走行中、クラッチを繋いだままでスロットルを閉じ、回転数がアイドリング付近まで下がっていく。そんな状況でもエンストせず、歩くような速度でトコトコ前に進むのだ。このエンスト間際から3000rpm くらいまでで味わえる「ストントントン……」という小気味良い鼓動感は、同じ400cc級の単気筒ながらショートストローク(87✕67.2mm)のヤマハSR400では味わえないもので、むしろ250ccながらロングストローク(66✕73mm)のカワサキ・エストレヤに近いかもしれない。1発1発の歯切れのよさや、その爆発を直に感じ取れるような濃厚な味わいはブリットやクラシックのOHVユニットに一歩譲るが、ヒマラヤンのロングストロークシングルは“らしさ”を十分に楽しませてくれる。

さすがに4000rpm を超えると小気味よさは消え、ダーッと連続した単調なフィーリングになってしまうが、ここからレッドラインの6500rpmまで、ハンドルやステップにイヤな振動が発生しないのは1軸バランサーを装備するヒマラヤンの美点。この快適性は同じREでもOHV車には望めないもので、トップ5速で約5000rpmを刻む100km/h巡航は至って平和。効果的な防風能力を発揮するスクリーンや後述する車体の安定性とあいまって快適なクルージングが可能だ。ちなみに最高速度は128km/hと発表されている。

スクリーンは小型ながらなかなか優秀な防風効果を発揮。ハンドルバーはアドベンチャー車としてはやや幅狭か。左右スイッチは日本車にも通じる配置で使いやすい。

ダイバーズウォッチを彷彿させるデザインの4眼メーター。キロ/マイル併記の速度計内の液晶部には気温やギヤポジション、トリップ、時刻などを表示。右下の小さな液晶メーターはコンパスで、矢印が北を、中央のアルファベット(写真はW=西)で自車の進行方向を示す。

24.5bhp(≒24.8ps)と発表される最高出力は額面通りの印象で、登り坂のきつい峠では1速を多用する場面もあるなど、もう少しだけ余力が欲しくなる。ただ、これはオフロード車にしては低速側のギヤ比がややロングに感じられるのも一因と思われる。1〜2速、またはファイナルを若干ショートに振ればエンジンはかなり快活さが増すだろうし、トレッキング的な場面での粘り強さもさらに向上するはず。ただし、街乗りでは何の不満もなく、パワー不足という印象を覚えることもなかった。

安定成分の強いハンドリング

ハンドリングは低速域では素直で軽やか、切れ込みなどのクセも感じないが、50〜60km/hあたりから21インチの大径フロントタイヤのジャイロを強く感じる粘っこいものとなり、倒し込みや切り返しではやや大きめの入力を要求される。とはいえ、オフロード車の経験があれば気にならないレベルだし、そもそも車体はスリムで軽いから、扱いに困るようなこともない。それに、この前輪のジャイロが生む直進安定性はなかなかのもので、先述した高速道路での安定性にも一役買っている。車体は剛性感より柔らかさ、しなやかさが表立つが、強風やギャップなどの外乱でドキリとするようなこともない。

オフロード性能については筆者の経験値が低いため、恐縮ながらあまり深くは語れない。とはいえ、そんなレベルのライダーが砂利道を多少元気に走ったり、砂地でリヤを滑らせて遊ぶ程度であれば、先述のエンジン特性によるトラクションの掴みやすさや足着き性の良さと相まって、怖さを感じにくくて扱いやすいバイクだ……という印象は受けた。

とはいえサスペンションの質感は「それなり」だ。フロントの200mm、リヤの180mmというサスペンショントラベル量からは、オフロード車らしい、しなやかで柔らかい作動をイメージするかもしれないが、実際は前後とも若干の突き上げ感のある、どちらかと言うとオンロード車に近い作動性を持つ。ブレーキもリヤはよく効くが、フロントは必要十分といった風情で、ABSの作動もなかなかに牧歌的と、足回りにはやや前時代的な雰囲気を残す。

フロントフォークは41mm径の正立タイプで、21インチのタイヤはチューブタイプを装着。2段構えのフェンダーも個性的だ。

後輪は通常のオフロード車より1インチ小径な17インチとし、足着きに配慮。リヤサスはリンク式のモノショックでプリロード調整を持つ。試乗車のタイヤはピレリのMT60で、オン〜オフまで対応するタイプを履く。

REにしかない、独自の面白さ

足回りだけでなく、点灯が一瞬遅れるニュートラルランプなど、日本車目線で見ればツッコミどころは正直ある。たった11ccで大型二輪免許が必要なのもハンデだろう。しかし世界的にも稀有な、新車で買える空冷シングルのアドベンチャー車という独自性、ロングストローク単気筒固有のフィーリング、そして親しみやすさと同時に懐かしさも覚えるスタイリングなどなど、他にはない個性がヒマラヤンにはギッチリ詰まっているのも事実だ。そしてこれは、REの他モデルにも共通して備わる美点。ややクラシカルな設計や構造に起因する違いなのだろうが、とにかくこのメーカーのバイクが持つ乗り味は、現行機種ではあまりお目にかかれないものなのだ。

69万9000円という価格は決して安くはないが、規制対応モデルを開発中とされるSR400は数万円の価格上昇が免れないであろう(最終型は55万800円だった)ことを考えれば、飛び抜けて高価というわけでもない。最近、味のある面白そうなバイクが少ない……とお嘆きの貴方にこそ、ヒマラヤンはもちろん、ブリットやクラシックといったREのモーターサイクルはぜひとも試してもらいたい1台だ。

独特の外観を生むタンクガードはヘッドライトやスクリーンの支持も兼ねる構造。エンブレムの裏側にはアクセサリーの固定に使えるナットが4つ溶接される(小写真)。

シート表皮は前後とも滑りにくいスウェード調。丈夫そうなパイプ構造のキャリヤも標準装備だ。

燃料タンク容量は15L。使用燃料は92オクタンで、数値上は日本のレギュラーも使用可能。ちなみにタンク上の模様は「HIMALAYAN」と書かれているのだが、分かります?

足着き性は良好で、身長175cm・体重62kgのライダーで両足がかかとまで接地する。ハンドルは高めで上半身はほぼ直立する、アップライトなライポジだ。

車体色はホワイトとブラックの2色。ともにつや消しのマット仕上げだ。

取材協力:ウイングフット(ロイヤルエンフィールド正規輸入元)http://www.royalenfield.co.jp

撮影:飛澤 慎

Source: WEBヤングマシン

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