これまでも燃料電池を動力源としたバスはありましたが、燃料電池バスとして国内で初めて型式認証を取得し、東京オリンピック・パラリンピックの開催される2020年までに東京を中心に100台以上の普及を見込んでいる「SORA」に乗ることができました。
路線バスとしての設計された「SORA」は、プラットフォーム的には日野自動車のバスをベースにしていますが、未来的なルックスとなっています。
特徴は、ルーフ上に水素タンク(前方)と燃料電池スタック(後方)を積んでいることで、基本となるパッケージングに与える影響を最小限としていることが、その外観から感じられます。なお、駆動モーターや駆動用バッテリーはエンジン車のバスと同様に車体後部に置かれ、減速装置を介して後輪を駆動します。路線バスに求められる特性から変速機構は固定式で、最高速度は70km/h前後ということです。
さて、その「SORA」に同乗試乗したのは、10分程度の特設コース。まさに路線バスとして運用されるであろう都内の道で、その乗り味を感じるというルートです。
運転席の真後ろに陣取って、メーターを凝視していると想像以上に、レスポンスよくパワーメーターが反応しているのを確認。
燃料電池の乗用車「MIRAI」よりもマイルドなセッティングにしているという話でしたが、通常のディーゼルエンジンを積んだ路線バスよりも、ずっと素早く反応している印象です。その加速もスッと軽やかに感じるもので、さらに振動やノイズもほとんど感じないというスムースさです。
こうした快適性で、東京オリンピック・パラリンピックで世界からのお客様を「おもてなし」すればインパクト大なのことは間違いなしと思えるほど、驚きの静粛性です。
さらに「MIRAI」では燃料電池に空気を送り込むブロワーの音が気になりますが、FCスタックをルーフに積んでいるためか、そうした燃料電池ならではのノイズもあまり気になりません。ゼロ・エミッションであることはメインテーマであるのでしょうが、それが副次的と思えるほど、静かな車内と電気駆動だからこそのスムースな加減速のほうがユーザーメリットとして実感できる10分間の試乗でした。
それにしても100台程度の生産を目指している燃料電池バスにFCスタックなどを開発するのは大変なコストだと思いきや、「SORA」の主要パーツはトヨタの乗用車から流用しているといいます。それにより生産コストを抑えるだけでなく、信頼性も確保しているのです。
なお、バス会社への販売はリース方式。そのため車両本体価格は公表されていませんが、試乗時にうかがったところ1億円ということです。
高圧水素タンク、FCスタック、駆動モーターなどは燃料電池車「MIRAI」から流用。パワートレインはMIRAIの2基がけといえる内容になっています。最高出力は300馬力オーバーですから、この巨体を動かすのに十分というわけです。
また高圧水素タンクはMIRAIでは2本搭載ですが、SORAは10本も積んでいます。このタンクに充填できる水素は20~23kg相当、航続可能距離は200km程度を実現しているということです。駆動用バッテリーはクラウンハイブリッドからの流用。あえて信頼性のあるニッケル水素電池を使っているというのはハイブリッドカーの歴史があるトヨタらしい判断でしょう。
『空(Sky)から降った雨が海(Ocean)まで川(River)をくだり、空気(Air)に姿を変えて空に帰る』、という自然の循環を名前に込めたという燃料電池バス「SORA」。水しか排出しない燃料電池バスは、空をただよう雲のようななめらかな走りも実現した、新体験のモビリティだったのです。
●トヨタSORA 主要スペック
全長:10525mm
全幅:2490mm
全高:3350mm
乗車定員:79名(座席22、立席56、乗務員1)
燃料電池形式:固体高分子形
FCスタック最高出力:114kW(155PS)×2
モーター形式:交流同期電動機
モーター最高出力:113kW(154PS)×2
モーター最大トルク:335Nm(34.2kg-m)×2
高圧水素タンク:10本(70MPa)
タンク内容積:600L
駆動用バッテリー:ニッケル水素電池
外部電源供給電力量:235kWh
(写真:門真 俊/文:山本晋也)
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Source: clicccar.comクリッカー