8/26にロシアでレッドブルエアレースの2018シーズン第5戦「カザン」が開催された。
カザンは2017年にエアレースが初開催されたロシア連邦・タタールスタン共和国の首都。2018年サッカー・ワールドカップの際、日本代表のキャンプ地が置かれた事で知られるこの都市の中心を流れるヴォルガ河の支流、リサ・カザンカにコースが設定される。
河川の淵(よどみの)部分にレイアウトされるため、河川(直線)上を行って戻るドナウ川(ブダペスト)とは違い、L字となるコースでVTM(バーティカルターンマニューバー:垂直上昇ターン)は1度だけで、長い時間Gが掛り続けるターンが多いテクニカルなレイアウトが設定された。
2017年はカービィ・チャンブリス選手が優勝し、ピート・マクロード選手/マイケル・グーリアン選手がそれぞれ2,3位を獲得した。一方でタイトルを奪った室屋選手は13位、2位のマルティン・ソンカ選手は9位とポイントを取りこぼし、最終戦までもつれる混戦の始まりとなった。
プラクティス・予選を通して各選手が、シミュレートしたタイムと実際の飛行結果が一致しない:風に翻弄される状況に苦戦していた。
予選結果
1 マティアス・ドルダラー 0:52.615
2 マイケル・グーリアン 0:52.820
3 ファン・ベラルデ 0:52.969
4 ベン・マーフィー 0:53.088
5 室屋 義秀 0:53.351
6 ミカ・ブラジョー 0:53.487
7 ピート・マクロード 0:53.747
8 カービィ・チャンブリス 0:53.862
9 マット・ホール 0:54.009
10 二コラ・イワノフ 0:54.062
11 ペトル・コプシュテイン 0:54.288
12 マルティン・ソンカ 0:54.356
13 クリスチャン・ボルトン 0:54.834
14 フランソワ・ル・ボット 0:55.074
予選トップは52.615のドルダラー選手。ランキングこそ6位だが、予選はトップ4の常連。前戦は体調不良で不出場であったが、速さは健在。
2番手には今シーズン安定感No.1のグーリアン選手が0.2秒差で続いた。3番手には新型ウイングレットを装着し、昨年の速さが蘇って来たベラルデ選手が収まった。
室屋選手は5番手。ドルダラー選手から0.7秒落ちとまずまずのポジション。決勝ラウンド・オブ・14での対戦相手は予選10番手の二コラ・イワノフ選手。イワノフ選手は現在ランキング最下位。開幕戦で機体を破損した為、機体開発の面で後塵を拝している。ようやく前戦ブダペストでシーズン初のラウンド・オブ・8進出(最終結果7位)を果たし、復調しつつあるが、未だ本調子ではない。
一方で調子を落としているのが、マット・ホール、ソンカの両選手。今シーズン優勝し、チャンピオンシップ1位と3位を走る2人。ホール選手は1.4秒の9位、ソンカ選手は2秒落ちの12位。ホイルパンツを一新したペトル・コプシュテイン選手も11番手と1.6秒落ちと精彩を欠いている様だ。
【ラウンド・オブ・14】
・ヒート1 二コラ・イワノフ VS 室屋 義秀
先攻イワノフ選手、53.809と予選タイムを上回る。室屋選手も52.774と予選タイムを0.5秒上回るタイムで勝ち上がる。ここ2戦の緒戦敗退の呪縛から抜け出した。
・ヒート2 ペトル・コプシュテイン VS ベン・マーフィー
コプシュテイン選手の53.766に対し、マーフィー選手は53.709と、スピンナー1つ分足らずの0.057秒差を逃げ切り、接戦を制した。
・ヒート3 マット・ホール VS ミカ・ブラジョー
後攻ブラジョー選手は、前戦ブダペストで2位:初表彰台を獲得し、ランキング4位・予選も6位と絶好調。しかし、ホール選手は予選は下位に沈んだが、FPでの好調を取り戻し52.389を叩き出す。ブラジョー選手はオーバーGペナルティ(0.6秒以上10Gを越え、2秒加算)を犯し、55.111で敗退。
・ヒート4 マルティン・ソンカ VS ファン・ベラルデ
ソンカ選手、52.246とここまでの最速タイムを記録する。ベラルデ選手は53.060。予選と遜色ない(0.091秒差)タイムを刻むが敗退。
・ヒート5 カービィ・チャンブリス VS ピート・マクロード
予選7番手と8番手の対決は昨年のランキング4位と3位の勝負。チャンブリス選手52.657に対し、マクロード選手は54.940。インコレクトレベルのペナルティ2秒を差し引いても逆転できない完敗となった。
・ヒート6 クリスチャン・ボルトン VS マイケル・グーリアン
予選タイムで2秒のタイム差が有るボルトン選手。一発勝負に出るもペナルティ(インコレクトレベル)を喫し55.544。後攻グーリアン選手はその結果を知りつつも52.437と予選タイムを0.4秒近く短縮してみせた。
・ヒート7 フランソワ・ル・ボット VS マティアス・ドルダラー
予選最下位のル・ボット選手とトップのドルダラー選手の対戦、大方の予想は参戦以来、下位で苦戦するルボット選手より、ドルダラー選手の優位を予想した筈だ。しかし、ル・ボット選手はここで52.900と、予選3位相当のタイムを叩き出す。今シーズン4戦中3戦ラウンド・オブ・14を(しかも2回は敗者復活で)勝ち抜けている隠れスピードスター、絶好調だ。
ドルダラー選手は痛恨のパイロンヒットを喫し、55.335に終わる。ペナルティを差し引いた単純なタイム差では0.6秒も速いのだが、3秒加算では勝負権はない。2016年チャンピオンの勝負勘は未だ闇の中なのかもしれない。
ファステストルーザー(最速の敗者)は、53.060を記録したベラルデ選手が獲得。ラウンド・オブ・8に勝ち上がった。
【ラウンド・オブ・8】
・ヒート8 室屋 義秀 VS カービィ・チャンブリス
室屋選手は昨年最終戦を彷彿とさせる驚速の51.643を叩き出した。チャンブリス選手も52.452と健闘したが、敗退。…と思われたが、飛行後に室屋選手のオーバーRPM(エンジン回転数違反)が確認され、まさかの失格となり、チャンブリス選手が勝ち上がった。室屋選手、飛行ではノーペナルティ―だっただけに無念の結果となった。
・ヒート9 フランソワ・ル・ボット VS マイケル・グーリアン
ル・ボット選手は53.140と前ラウンドと遜色ないタイムを記録する。しかし、後攻グーリアン選手は52.262と更にタイムを短縮し、今回もファイナル4へと勝ち進む。
・ヒート10 ファン・ベラルデ VS マット・ホール
ファステストルーザーとして敗者復活したベラルデ選手は、52.657と予選タイムを短縮する。前ラウンドで最速のホール選手はインコレクトレベルのペナルティ(+2秒)を受け、54.940でまさかの敗退。
・ヒート11 ベン・マーフィー VS マルティン・ソンカ
マーフィー選手は52.809の好タイムを記録したが、ソンカ選手は52.009と公式最速タイムを記録し、連勝に向けて勝ち上がる。
【ファイナル4】
ファイナル4は勝ち上がり順に飛行する。後半に飛ぶ方がラウンド・オブ8を飛行してからのインターバルが短くなるため、不利といわれる。
チャンブリス選手、52.304 敗退が取り消されて急遽の飛行だが、ここで更にタイム短縮した。
グーリアン選手、52.238 0.064差でチャンブリス選手をかわしてトップに立つ。
ベラルデ選手、52.686 充分に速いが、前の2人を上まわれず。初優勝は持ち越しとなった。
ソンカ選手、最終飛行で52.123でグーリアン選手を逆転!優勝を掴み取った。
今回の結果により、ランキングトップはグーリアン選手(55pt)、2位はソンカ選手(49pt)、3位ホール選手(49pt)となった。室屋選手は5位のままだが、3ptを加え22ptとなった。グーリアン選手とのポイント差は27ptとなった。
残り3レース全てで優勝すれば+45ポイントを加算して69ポイントに辿り着く。しかし、昨年2位の70ポイントにはもう届かない。一方のグーリアン選手はあと15ポイント獲得で70ポイントに到達し、マジック点灯…という状態となっている。
客観的にチャンピオンシップ争いはグーリアン・ソンカ・ホールの3選手に絞られつつある。室屋選手は残りレースで毎回上位3人のうちの誰かをラウンド・オブ・14で直接下せば、奇跡の再現が可能かもしれない。
今回失格とはなったが、ここ数戦の懸案であったGコントロールを克服し、速さが甦った室屋選手。現チャンピオンとして残り3戦全ての優勝を狙い、タイトル争いを掻き回して欲しい。
次戦はオーストラリアのウィーナー・ノイシュタットで9/15,16に開催される。初開催地で今シーズン初めてレーストラックが陸上に設定される。カザンとは異なるレイアウトでテクニカルなコースが予定されている様だ。
(川崎BASE・Photo:Predrag Vuckovic/Joerg Mitter/Mihai Stetcu/Andreas Schaad/Red Bull Content Pool)
あわせて読みたい
Source: clicccar.comクリッカー